混迷の中東 2019 1 4
最近は、アメリカ対イランの対立ばかり報道されていて、
イラクという存在は、すっかり目立たない状態になっています。
しかし、イラクが中東の大国だった時代があるのです。
これは、イランと対比しながら話しましょう。
昔話をすれば、イランは親米国家だったのですが、
イスラム革命(ホメイニ革命)によって、反米国家になりました。
そこで、イスラム革命拡大の防波堤として、
サダム・フセインのイラクが中東の大国として存在感を発揮したのです。
スンニ派のアラブ諸国も、
シーア派のイランの勢力が拡大するのを防ぐ役割として、
サダム・フセインに期待するものがありました。
ところが、「イラクには大量破壊兵器がある」と称して、
イラク戦争によって、アメリカがサダム・フセインを滅ぼしてしまいました。
こうなると、どうなるか。
サダム・フセインという防波堤がなくなりましたので、
シーア派の勢力が一気にイラクに広がりました。
もちろん、サダム・フセイン時代においても、
イラク南部は、シーア派が多かったのですが、
サダム・フセインが政治的に抑え込んでいましたので、
シーア派が主導権を握ることはなかったのです。
しかし、今や、イラクはシーア派国家の一員のようにも見えます。
もはや、イラクは、「第二のイラン」になった感じにも見えます。
一方、イランから見れば、
イラク南部には、シーア派の聖地があるので、
サダム・フセインが支配していた地域を、
解放した、あるいは「原状回復」したという感覚があるかもしれません。
それにしても、かつて中東の大国だったイラクは、
もはや人々の記憶からも消えつつあるかもしれません。
しかし、こうなると、イラクのスンニ派は、
不満と怒りが噴出してくるでしょう。
そういう怒りが、スンニ派の過激派組織を生む温床となります。
これが、第二の「サダム・フセイン」を生み出すのか、
スンニ派の過激派組織を生み出すのかわかりません。
アメリカは、どうするのでしょうか。
アメリカ対イランの対立があるので、
第二の「サダム・フセイン」を立てて、
シーア派のイラン拡大を抑えたい気分になるかもしれません。
しかし、そうなると、既視感があります。
ところで、イランには、
アメリカの傑作機と言われる「F-14トムキャット」があります。
これは、イランが親米国家だった時代の名残です。
F-14は、アメリカでは空母の艦載機として使われましたが、
今は、すべて退役となっています。
可変翼のF-14は、いまだに航空ファンには大人気です。
もう可変翼の飛行機は作られないので、航空ファンは複雑な心境でしょう。
航空ファンにしてみれば、イランが親米国家に戻ってほしい。
「F-14の修理部品は、どうしているのだろうか」と思うかもしれません。
しかし、スンニ派のイスラム諸国にとっては、
イランが親米国家になっては困るでしょう。
ただでさえ、イランは中東の大国として存在感があるのに、
親米国家になると、さらにパワーが増すことになる。
できれば、アメリカ対イランの対立が続くことによって、
イランが弱体化してほしいと願っているでしょう。
さて、気になるのは、イスラエルの出方です。
アメリカ対イランの対立の激化によって、
レバノンやシリアのシーア派が活性化する前に、
そういう地域へ先制攻撃、いや予防的攻撃を検討するかもしれません。
イスラエルにとって、レバノンやシリアのシーア派武装組織は、
潜在的な脅威だからです。
こうなっても、スンニ派のアラブ諸国は傍観するかもしれません。
「シーア派勢力が減る分には問題なし」と考えるでしょう。
そこで、イスラエルとしては、安心してレバノンやシリアを攻撃できます。
戦争が、政治的苦境にあるネタニヤフ首相を救うと考えるかもしれません。
ただし、気になるのは、ロシアの出方です。
シリアの後ろ盾となっているロシアが、どう考えるか。
ロシアの存在を考えれば、
イスラエルは、レバノン攻撃のほうを優先させると考えるのか。
一方、イランの背後にある、
スンニ派が多数派で核兵器保有国のパキスタンは、どう考えるか。
さて、こうなっても最終戦争は始まらないかもしれません。
役者がそろわないからです。
「往年のスター」である欧州が参加しないと最終戦争は始まらないのです。
王たちが「ハルマゲドン」という土地に集まってから最終戦争は始まるのです。
ハルマゲドンとは、イラクにある地名です。
ところで、日本は高みの見物をすればよいわけではなく、
エルサレムから見て東の国、
太陽が昇る国も「脇役」として舞台が用意されているかもしれません。
「まだセリフが覚えられない。演技ができない」と舞台を辞退していたのに、
意外なきっかけで中東の戦争に巻き込まれてしまうかもしれません。